コラム

役員退職金と法人税の節税

2010年7月7日 | 税金の基礎知識

会社経営上で大きな節税効果があるのが役員への退職金です。なぜ節税になるのか、実施上の注意点についてまとめてみます。

創業社長への退職金は巨額になる

創業から事業の安定化まで必死に会社を育て上げた創業者にもいつかは引退のときが来ます。事業承継により引退する場合もあれば、急逝される場合もあります。
創業社長の引退のときに問題になるのが役員退職金です。

会社を成長させてきた功績に対して巨額の退職金が支払われることがしばしばあります。会社としても巨額な支出になるので資金的な手当てを含め慎重に検討しておかなければならない問題でもあります。

退職金は所得税法上優遇されている

退職金は所得税の取り扱いでは、「退職所得」に分類されます。
退職所得に対する所得税は次のように計算することになっています。

退職所得 = ( 退職手当 - 退職所得控除 ) × 1/2

退職所得の所得税 = 退職所得 × 所得税率 -税額控除

退職所得控除は在任期間に応じて控除額の計算方法が定められています。20年超の在任期間がある場合には最低でも870万円になり、無条件に収入金額から控除できることになっています。

役員退職金を考える場合、退職所得控除のメリットよりも、退職所得控除後の収入金額に「1/2」を乗じて退職所得を計算することの効果が非常に大きいといえます。

単純な話、退職金の半分以上は税金を課されないということです。

しかも、一定の書類を会社に提出するだけで、退職所得は分離課税にすることができます。
他の収入(所得)の状況とは別枠で税金の計算がされるということです。
支給を受ける退任役員としては、所得税が大幅に圧縮されるので、役員報酬としてもらうよりも税金は有利ということができるのです。

いくらでも法人税の損金になるわけではない

役員にとっては有利な面が多い役員退職金です。支払う側の会社としても役員退職金の全額が損金処理できるのであれば法人税の大幅節税が可能といえます。

しかし、法人税はそんなに甘くありません。

会社の損金として認められるのは、

その役員の在任期間、退職の事情、類似法人の役員退職給与の支給状況、その他の状況を総合的に勘案して妥当と認められる金額

までとされています。これを超える額は損金不算入とすることになっています。

ここでは非常にいやらしい条件があります。
類似法人の役員退職給与の支給状況」といわれても同業他社の役員退職金がいくら支給されたかということは、比準会社が上場会社でもない限り把握することができません。
税務署は全国の同業他社の情報を網羅的に収集することができるかもしれませんが、中小企業がこのような情報を正確に把握することは困難です。

こうした事情から非上場の中小企業では、「功績倍率法」という方法で役員退職金の適正金額を算定するしかなくなっています。

功績倍率法とはどのようなものか

中小企業には類似法人の役員退職給与の支給状況が明確にできないため、頻繁にトラブルが生じています。税務当局と見解が相違して税務訴訟に発展したことも何度もあります。こうした税務訴訟の判例の中から慣行として定着してきたのが「功績倍率法」という計算方法です。

功績倍率法では、

退職給与 = 最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率

という計算を行います。

このうち、功績倍率とは、会長であれば1.0倍、社長であれば3.0倍、専務であれば2.0倍といった係数です。通常は役員の役付きごとに定めます。

税務実務では、この功績倍率は3.0倍が上限!?とされています。
実際の租税判例では3.0倍を若干超過した倍率でも適正とされた事例もあるようですが、訴訟まで行って勝ちとる覚悟が必要ともいえます。

功績倍率法と節税

さてさて、役員退職金は思いのまま損金算入できないということはご理解いただけましたでしょうか。
ここで、功績倍率法の計算式をよく眺めてみてください。

会社の裁量で決定できる計算要素は「最終報酬月額」しかありません。功績倍率は3.0倍が上限と考えるしかないので裁量性が高いとはいえません。

中小企業では、代替わりを想定して創業社長の役員報酬を減額して、後継ぎの専務の役員報酬を底上げしているようなケースがあります。このようなことを行うと退任が近い創業社長の「報酬月額」が圧縮されているため、損金算入が可能な役員退職金が同時に圧縮されることにもなりかねないのです。
後継ぎが役員報酬としてもらうよりも、創業者が退職金としてもらった方が退職所得の50%圧縮が効いて税額が少なくなることが十分にあり得ます。もっとも、現金で受け取った退職金をその後の相続対策でどのように対応していくかという問題もあります。

一度引き下げた役員報酬を退職が近いからといって急に増額するのも色々と問題になりやすいですから引き下げを行う場合には注意が必要です。

上記のようなことを知ると善からぬことを考える人が必ずいるものです。

退任予定年度の前に役員報酬月額を3倍ぐらいに引き上げておけばいいんじゃん!

役員報酬についても過大役員報酬の損金不算入という取り扱いがありますので、報酬月額は無限大に引き上げられるわけではありません。引き上げるのであれば、それ相当な合理性のある説明ができるのでなければ、「仮装」や「隠ぺい」を疑われる原因になりますのでご注意ください。





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