コラム

起業家を取り巻く専門家選びの注意点―税理士編

2010年6月2日 | 起業支援

「起業」というキーワードでインターネット検索すると膨大な検索結果が表示されます。
検索結果の多くが、税理士のほか、司法書士・行政書士、社会保険労務士などの国家資格を有する専門家による起業支援を謳うサイトです。
専門知識が無いのに、どうやって、自社に必要な専門家とそうでない専門家を見分けたらいいでしょうか?

そもそも、「起業」には本当に専門家が必要なのか

「起業」、つまり、事業を立ち上げることは、経営者しかできません。
事業を立ち上げるそのときに税理士さえいれば順調にスタートできる、というわけではありません。税理士は、税金と関係のある業務に関して、経営者の暴走や迷走に対して助言する以上の介入はできません。
そうはいっても、起業早々の経営者に経理知識の習得をすすめ、その上で自社での帳簿作成の重要性を説く税理士もいます。起業段階では、経営者は、売上げに関係ない経理の勉強よりも、売上獲得に全精力を投入すべきだと思います。税理士に提出する帳簿作成のために、起業時から経理知識のある社員を雇うのも、立ち上げたばかりの中小企業には厳しいものです。
決算処理などの必要に応じて経理業務のアウトソーシングを引き受けてくれる税理士を選んだほうが、会社の資源を有効配分できます。立ち上げたばかりの事業を運営していくのにあたって、その税理士はどこまでスタッフ業務をを引き受けてくれるのか、キチンと内容を吟味しましょう。サポートしてくれる内容は、税理士によってさまざまです。

税のプロとしての税理士の役割

税理士の本業は税務です。周辺業務として記帳代行や給与計算といったアウトソーシング業務も基本業務のひとつです。
これらの業務以外コンサルティング的サポートをできる税理士ももちろんいますが、本業というよりもその税理士の経験に基づく状況判断や企業経営上の注意点の助言的なものなので、これだけを独立した業務メニューとするのは一般的ではありません。
起業という局面で生じる税務問題は実はそれほど多くありません。
税務に直結するものは、

  • 税務署等に対する設立時の各種届出
  • 消費税の課税方法の選択
  • 役員報酬の設定額の検討
  • 記帳代行
  • 決算処理と確定申告
  • ぐらいです。
    このうち会社設立直後に必要となる高度な専門性が要求されるサービスは、消費税判定と役員報酬設定ぐらいではないでしょうか。起業当初から大ブレイクという会社もありますが、ごく稀なケースなので節税は基本メニューにはならないと思います。これらの高度な専門化サービスを必要としないのであれば、第1期決算間際まで税理士と契約をしなくてもよいと思います。

    アウトソーシング先としての税理士の役割

    むしろ、経営者にとって重要なのは、社内リソースを事業立ち上げに集中投入できるように、専門性のある業務を廉価で引き受けてもらえるアウトソーシング先なのではないでしょうか。決算時に必要となる会計帳簿の作成や月々の給与計算の外部委託です。
    これらは税理士の資格独占業務ではありませんが、税理士事務所であれば通常行っているサービスメニューです。
    独占業務ではありませんので、これら業務を行う一般事業会社もあります。これら業務の積み上げ結果で決算を行う訳ですから、税理士としては自社でこれらの業務を行っていた方が取り扱いしやすいというのが正直なところです。アウトソーシング会社として事業を行っているとしても、試算表が出せればよいというレベルのところから、年次決算に向けた税務対応まで緻密に考慮した処理を行うところまであり、品質は必ずしも一定ではないということを頭に入れておく必要があるでしょう。

    アドバイザーとしての税理士の役割

    起業における第三の税理士の役割は、起業段階で生じる処々の課題に対するアドバイザーとしての役割です。
    企画されたビジネスを立ちえ上げる過程で生じる、

  • 事業及び事業計画の評価
  • 資金調達の要否判断と過剰債務の抑制
  • 成長段階に応じた固定費構造のあり方のディスカッション
  • 資金の使い方に対する助言
  • アクションプランに対する助言
  • 撤退タイミングの進言
  • といった、未知の世界へ突き進む起業家の不安や課題を短時間で解決できるように的確に助言することが大切です。
    これらはマニュアル化できる性格のものではなく、経営者目線を交えて起業家を支えるものでなければなりません。それ相当の実務経験をもった税理士にこそ対応できるサービスだと思います。

    税理士が起業支援に積極的な事情

    税理士も営業が大変な時代になりました。税理士登録者数が7万人を超える一方、顧客となる法人や資産家はそれほど増えていない状況です。法人・個人による事業者数を420万社とすると、税理士1人あたり60社のマーケットしかない計算になります。
    さらに、不景気で業績を着実に伸ばしている法人はどんどん減少しています。節税が税理士の本分といいながら腕を振るえる事業者の数はそれほどない訳です。
    他方、既に税理士と顧問契約している事業者は、簡単には税理士の変更をしません。察するに、経営者の方は、会社の内部事情を把握した税理士を簡単に契約解除して新しい税理士と新しく信頼関係を築くための労力を負担に感じたり、守秘義務はあるものの万一の情報漏えいなどに警戒心があるのかもしれません。

    このように、税理士間の競争環境は年々厳しくなってきており、新規顧問先獲得のためにもどうしても「起業家」をターゲットに考えてしまうのだと思います。
    このように税理士業界の台所事情は確かに厳しいのですが、それはこれから起業を始める諸氏には関係の無いことです。
    このように色々な税理士が起業支援を謳っている状況で、税理士を探している会社としては、税理士事務所がどのような特徴があるのかを判断することが難しいと思います。

    起業支援に積極的な税理士のタイプ

    起業支援に積極的な税理士には大きく3つのタイプがあると思います。

    1. 開業したての税理士
    2. 顧問先の数が少ないので必死に営業している訳です。若くてバイタリティーいっぱいな人が多いと思います。税理士と経営者との密着度は比較的高く、アドバイザーとしての役割には適しているといえるでしょう。しかし、事務所が小規模であるため、アウトソーシング先としてはキャパシティーに難があるかもしれません。

    3. 開業したてではないが営業熱心な税理士
    4. かつて税理士業界では広告規制がありましたが、現在は規制が撤廃されています。規制撤廃を機に一気に拡大を目指す税理士が増えてきました。起業支援は営業メニューのひとつということになります。このタイプの事務所は、多数のスタッフを擁し積極的な拡大戦略を展開しています。所長税理士は営業専門という事務所もあるようなので、アドバイザーとしての役割をどのようなランクのスタッフが対応してくれるのかに注意する必要があるでしょう。

    5. メンターとしての税理士
    6. メンターとは指導者・助言者です。自らの経験と専門知識を活用して起業家を本気で応援するタイプの税理士です。起業の現場では成功の裏側に多くの挫折があるものです。起業を志す人が挫折しないで済むように水先案内人になることを使命と考えている税理士と言えるかもしれません。メンターを現実に実現するためには余裕がなければ難しいので、ある程度の事務所規模があるのが通常だと思いますが、顧客との密着度を重視しているため、営業重視の事務所よりも規模は小さい傾向があるように思います。

    起業にあたっての税理士選定

    税理士は、十人十色です。考え方も顧客に対する方針も異なっています。共通しているのは国家資格を有しているという点だけかもしれません。
    起業において何かしらの形で税理士の関与が必要となると思いますが、経営者としては自らの事業方針の中で、どのような業務を税理士に期待するのかを明確にするべきだと思います。
    それによって、どの段階で税理士と契約すべきか、どのような業務を依頼するかが決まってきます。業務範囲に応じて料金も異なってきます。
    税理士業務はサービス業なので、同じサービス名目であっても対応方法にバラつきがあるものです。たとえば、「記帳代行」といってもすべての会計事務所が同じサービスを提供するわけではありません。処理過程や会社の業務負担が異なるものなのです。
    税理士選定にあたっては、単に料金やサービスメニューで比較するのではなく、サービスの提供方法や税理士の関与方法についてよく説明を受けてから行うべきだと思います。

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