コラム

親族に対する役員報酬にご注意を

2012年4月23日 | 税金の基礎知識

家族を役員にして節税?

同族会社では代表者の家族が役員になっているケースがよくあります。
このようにすれば節税できると考えている代表者もいらっしゃるのではないでしょうか?

なぜ節税になるかというと、代表者の役員報酬が高額なればなるほど所得税の税率が高くなるからです。
たとえば、役員報酬として確保したいと考えている金額が2500万円だとします。
これを代表者一人でとると所得税の税率は40%となります(扶養家族なしとします。以下の同じ)。奥様と長男を役員にしてそれぞれ500万円ずつ役員報酬を支給し、代表者の役員報酬を1500万円にしたとします。代表者の所得税の税率は33%、奥様と長男の税率は20%になってしまいます。
所得税の税率が累進税率であるため、このような結果になってしまう訳です。

平成24年度税制改正で、給与所得控除の上限設定(245万円)が行われるため、このような工夫(?)を行う会社が増えるのではないかとも思われます。

役員であれば役員報酬を支給できる訳ではない

役員報酬は従業員とは異なり、常勤していなくても支給することができます。タイムカードを打刻していないこともあるかもしれません。ならば、家族を役員にしてそれぞれに報酬を支給すれば、税制改正にも対応できる!なんて考えていませんか?

大前提として、役員報酬のうち不相当に高額な部分の金額は損金算入できないことになっています。不相当に高額かどうかは、その役員の職務内容、法人の収益状況、使用人に対する給与の支給状況などを総合的に勘案して判断することになっています。

家族役員が会社の業務に従事していれば、少なくとも何らかの給与が支給されることに問題は生じないでしょう。
問題なのは、会社の業務にも経営にも係わっていないのに、役員登記されているのだから報酬を払う、というパターンです。何もしていないのだから、全額が不相当に高額だ!と言われたらどうしましょう(汗)

取締役会の議事録に名前を形式上残しておけばよいのでしょうか。
国税調査官が、勤務実態や議事録の内容についてご本人に質問したらどうしますか?税務調査では、社員や取引先に質問が行われることもないわけではありません。

黙認されてきただけかもしれない

家族役員について税務調査で厳しく質問されていなかったように思います。
これまで大丈夫だったから税務署が認めている!ということには必ずしもなりません。
場合によっては、過去に調査済みの年度に遡って修正を求められることも理屈上ありうるのです。

とは言うものの、家族役員への役員報酬の適正額を税務署が決定するのは難しいものです。
会社の仕事をしている家族役員に40万円の報酬を支給していて、そのうち30万円であればOKだけど、超過分は損金算入を認め難いなんて言えるでしょうか?
勤務実態がないことが明らかになった家族役員の報酬は、ゼロ円ですよね!というのであれば、指摘し易くなります。役員としての対外責任を負っているのにホントにゼロが正しいのかという議論は当然ありますけどね。

いずれにしても、家族役員に報酬を支給する場合には、その金額の妥当性を説明できるようにしておくべきです。特に、24年改正の給与所得控除制限の潜脱事例はないか!という重点調査目的が指揮されないとはいえませんから。

勤務実態がないとされた事例

未成年で就学中の取締役3名に対する報酬名義の金員は、父であり請求人会社の実質的支配者たる代表取締役に支給された報酬であり報酬限度額を超えるから、損金の額に算入することはできないとした事例(棄却)(平成2年4月6日裁決)

【裁決の要旨】
請求人は、取締役3名に対する報酬名義の金員は適法に選任されたこれら取締役に対する報酬であつて損金の額に算入されるべきである旨主張するが、①取締役らは、取締役就任当時未成年で就学中であり、かつ、うち2名は日本に滞在した期間がごく短いことから、請求人の事業内容を把握し、取締役会に出席して意見を述べ議決権を行使し得る状況にはなかつたものと認められ、②取締役らが、請求人の発行株式の過半数を所有しているとしても、それは、親権者である父母が同人らを株主にしたのであつて、実質的に請求人を支配、管理しているのは、父であり請求人の実質的支配者である代表取締役であると認められる。また、③取締役らの報酬名義の金員が預け入れられた同人ら名義の普通預金は、代表取締役が実質的に支配、管理するものと認められるから、その報酬名義の金員は、代表取締役に支給されたものと認めるのが相当である。
 更に、④請求人は、株主総会決議に基づき取締役会において役員ごとにその報酬限度額を定めているところ、代表取締役に支給されたものとされる上記の報酬額は、支給限度額を超えることとなり、損金の額に算入することはできない。

全文はとんでもなく長いので、国会図書館等で確認してください。ネットには転がっていないようです。

要旨だけではわからないのですが、問題となった未成年取締役は取締役就任時、13歳、15歳、16歳だったようです。これはさすがにアレですよね。

役員報酬として3社から月額20万円、10万円、10万円が3名各人に支給されていたようです。金額的にはありかな?と一瞬思いましたが、年齢等を考えるとアレですよね。

国税調査官は、未成年の取締役に質問調査権を行使していたようです。要するに、直接質問を行い、業務の理解度や議論の経過を質問したようです。

アレな部分が多い事例ではありますけど、実際に調査ポイントとなったのは今回の記事内容そのまんまでした。
「社会通念」は重要ですね。





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