コラム

報酬無申告=弁護士4600万円所得隠し

2011年1月28日 | 時事 / 税金の基礎知識

弁護士に対する税務調査

愛知県弁護士会に所属する弁護士(34)=名古屋市千種区=が名古屋国税局の税務調査を受け、2009年までの6年間で約7000万円の申告漏れを指摘されていたことが26日、分かった。うち約4600万円については、消費者金融に払い過ぎた利息の返還を求める「過払い金返還請求訴訟」などの報酬の一部を申告しなかった分で、同国税局は所得隠しと認定し、重加算税を課した。
(中略)
この弁護士をめぐっては、金融先物取引で得た約2億7000万円を申告しなかったとして、名古屋地検が昨年12月、所得税法違反容疑で母親(64)を逮捕、起訴している。(時事ドットコム2011.1.26より、個人名は筆者削除修正)

このニュースをどのように読みますか?

正義の味方であるはずの弁護士が所得隠し!?

という点に興味は行きがちだと思うのですが、少し税理士的考察をしてみたいと思います。

どのように隠したのか

感情的な議論はさておき、このニュースにはいくつかポイントがあります。
ひとつ目のポイントはどうやって隠したのか(実際には見つかりましたが)という点です。

ポイントは、近年盛んに行われている「過払い金返還請求訴訟」に絡んでいるところです。この手の訴訟は、ほとんどの場合、依頼人は個人です。
会社の場合、弁護士費用は通常経費処理されると思います。また、報酬を支払った会社は支払調書という書類を税務署に提出しています。個人事業主の場合も同様に経費処理したのであれば支払調書を提出しなければならないことになっています。

支払調書は、自分がどこの誰に1年間でいくらの報酬を支払いました!ということを記録した書類です。提出先は報酬の支払者の所轄税務署ですが、税務署内で仕訳されて、報酬の受取人の所轄税務署に回付され個人別に名寄せされることになります。

要するに、これら支払調書の提出を要する者からの報酬は隠すのが難しいということになります。

逆に言えば、支払調書を提出する義務のない個人からの報酬は、税務署に補足され難いということが言える訳です。
また、個人からの報酬の授受は振込みではなく現金で行われることが多い点も注目点といえるでしょう。

なぜ見つけられたのか

隠した本人は見つからないだろう!という安易な発想でこういうことをしてしまうのでしょうけれど、税務署はそれほど甘くありません。

今回のケースでは、弁護士報酬は、消費者金融等から回収した過払い金から報酬を差し引いて依頼者に残金を支払っていたはずです。消費者金融等からの返還金は、弁護士が管理する銀行口座に振り込みにより行われているはずです。
受任弁護士は、返還金の入金口座の帳簿記録を何らかの形で作成していたはずですから、その帳簿を税務当局は精査したのでしょう。依頼者への支払と過払い金の返還金の差額は、事務経費と報酬になるわけですからね。恐ろしく細かい取引の突合せをひたすら行ったことが予想されます。

あと、考えられるのが、弁護士特有ともいえる着手金です。着手金は面談時に現金で支払われることも多いと考えられます。弁護士が領収書を発行しなかったり、正規の領収書ではない領収書を使用していたら、所得隠しがやりやすくなってしまいます。これをどうやって見つけるのか?これまた恐ろしく膨大な作業だと思いますが、受任契約書と過払い金返還額をひとつづつ突合せすれば見つけることが可能になるはずです。また、「訴訟」事件であれば、事務所や裁判所にその弁護士が行った事件であることが記録として残っているはずなので、突合精査したのかもしれません。

それにしても、気が遠くなるほど膨大な検証作業が行われたことが想像されます。

あるいは、隠した現金を銀行口座(B勘定)に溜まっていたのを発見されたのかもしれません。査察による強制捜査とは報道されていませんが、抜き打ちの現況調査で溜まり(隠してあった現金)が発見されたのかもしれませんけどね。

国税局が調査している

通常、個人事業主に対する税務調査は、所轄税務署が行うのですが、今回は国税局が調査を行っているとのことです。この事件だけであれば、よほど大規模な事務所だったのか、組織的に所得隠しが行われていると判断されるところですが、母親が巨額の申告漏れを発見されているようなので、芋ずる式に息子の弁護士も国税局が対応したということなんでしょうかね?

いずれにしても通常ではないことだけは確かだと思います。
個人事業に対しても国税局が動くことがある!という点がポイントだと思いますね。

所轄が動くのか、局が動くのかの差はあっても、税務当局も必死だし、何よりもまじめな人たちだということを忘れてはいけません。
税務調査で白いものを黒だとするようなことは考えられませんが、地道に裏取りをしながら隠しているものを見つけ出すのだということを覚えておかなければなりません。

これぐらいなら、、、という考えをされる人もいるかもしれませんが、これくらいでも脱税は脱税です。

重加算税を課されている

今回のケースでも重加算税が課されています。重加算税が課されるのは、仮装隠ぺい行為があったと認定された場合に限られます。

計算間違いや見解の相違的な問題であれば、5年間だけが税務調査の対象となります。
これに対して仮装隠ぺい行為がある場合には7年間を対象とすることができることになっています。記事からは修正申告をしたのか、更正されたのかはわかりませんが、対象期間は6年になっています。

よほど図太い人でない限り、所得隠しをしていたら、いつ見つかるか、いつ見つかるかと不安でいっぱいになっているだろうと思います。

隠したお金を使えば、その金どこから出てきたのでしょうか!?

税務署も挨拶に行きたくなるかもしれません。

結局、怪しいお金は表で使えないお金なのです。精神的にもよいことなんかありません。

怪しげなことをしている人、これぐらいみんなやっている!なんて勝手に思っている人は早々に考えを改めた方がよいと思います。

おわり





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