コラム

役員に社宅を貸与すると手取りが増える

2012年5月28日 | 税金の基礎知識

役員が賃貸住宅を個人で契約されていませんか?

自宅家賃をご自身で払っている方がいらしたら、次のことを検討してみるといいかもしれません。
自宅の賃料なんだから個人で負担するのが当たり前!とお考えかもしれません。

会社と個人とを公私混同するのはよくないという考えは、立派な経営姿勢です。

しかし、少しでも税負担を減らしたいと考えるのも人情です。
そんな方は、自宅の賃貸契約を個人から法人に変更することをお考えください。

会社契約にすれば会社の経費にできる

個人の生活費のうちで、家賃はかなり大きな支出になります。その一部でも会社の経費にできるのであれば資金的にも楽になるはずです。

税法の世界では、社宅制度について特別な定めがあります。

会社が賃貸契約をしている限り、家主に払う賃料は全額会社の経費にできます。
ところが、実際に住宅を利用している役員が賃料を負担していない場合や負担賃料が適正ではない場合には色々と問題が生じます。

【No.2600 役員に社宅などを貸したとき(国税庁HP)】
役員に対して社宅を貸与する場合は、役員から1か月当たり一定額の家賃(以下「賃貸料相当額」といいます)を受け取っていれば、給与として課税されません。

要するに、役員から『一定額の家賃』を会社が徴収していれば、貸与を受けている役員に対して所得税は課税しません、ということです。
『役員に社宅を貸与した場合』とされていますから、法人が契約主でなければ上記の適用はないということになります。つまり、個人契約なのに家主への支払を会社が行い、役員から『一定額の家賃』を会社が徴収しても、給与課税を免れることはできません。

法人契約 個人契約
負担 適正額以上を個人負担 適正額未満を個人負担
(全額法人負担を含む)
適正額以上を個人負担 適正額未満を個人負担
(全額法人負担を含む)
給与課税 なし あり あり あり

適正賃料とはいくらか?

役員が負担すべき適正賃料について、国税庁のHPに詳細に記述されています。

■小規模な社宅である場合(小規模の定義は国税庁HP参照)

次の(1)から(3)の合計額が賃貸料相当額になります。
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3平方メートル)
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

ご覧になってわかるとおり、建物についても敷地についても固定資産税の課税標準額を基礎として計算します。なお、固定資産税の課税標準額は市区町村に賃借人が課税評価証明書の請求を行えば入手することができます。

【どれぐらいになるのか計算してみる】
建物の固定資産税評価額  30,000千円(床面積60㎡、共用部分を含む)
敷地の固定資産税評価額  10,000千円

(1)30,000千円 × 0.2%   = 60,000円
(2)12円 × 60㎡ ÷ 3.3   =    218円
(3)10,000千円 × 0.22%   = 22,000円
(1)+(2)+(3)         = 82,218円

賃貸相場が10,000円/坪だとすると月額賃料は181,818円(60㎡÷3.3×10,000円)となりますから、この計算では個人の負担は約10万円減少することになります。

小規模な社宅でない場合の計算方法は国税庁HPをご参照ください。

この計算式に当てはめて計算した金額を役員に負担してもらえば、役員に対する給与課税はなくなります。

手取りが増えるか検証してみましょう

前記の計算例で個人が180,000円/月の賃貸契約をしていたものを法人契約に切り替えて83,000円/月を個人負担することにします。会社からは97,000円余分に資金が出ることになるのでその分役員報酬を減額することにします。扶養家族はいないものとします。

社宅なし 社宅あり 差額
役員報酬月額 500,000円 430,000円 △97,000円
社会保険料 △69,830円 △60,053円 9,777円
源泉徴収税額 △18,570円 △13,770円 4,800円
社宅負担 △180,000円 △83,000円 97,000円
手取額 231,600円 273,177円 41,577円

このように税金の減少だけではなく、社会保険料も減少します。当然に社会保険料の会社負担額も減少することになります。
この計算では、会社の負担を考慮して社宅家賃の会社負担額見合いを減額していますが、会社に十分な利益があり節税を志向するのであれば役員報酬を減額する必要はないかもしれません。

小規模ではない場合や豪華社宅の場合には上記の計算方法が異なりますのでご注意ください。

最小自乗法と損益分岐点分析(CVP分析)

2012年5月23日 | 管理会計

最小自乗法による損益分岐点分析はどの程度の正確さがあるのか?

『高田直芳の実践会計講座 「管理会計」入門』をご紹介しましたが、その中で最小自乗法による損益分岐点分析が紹介されていました。
大変興味深い話です。この計算にある程度の精度があるのであれば、中小企業でも活用できる局面が多々ありますからね。たとえば、帝国データバンクや東京商工リサーチの信用情報を基礎として競合会社の固定費の状況や損益分岐点を計算できたりしますからね。

ところが、著者の高田先生は、変動費率がマイナスになるなど異常値がはじかれることもあると指摘されています。いい数字がはじけることもあれば、そうではないこともあるというのでは困ります。いい数字だと思っていた数字でも実態を現していないのであれば、意思決定をミスリードすることになってしまいます。

ということで、当事務所の顧問先の月次決算データを当てはめて検証してみました(汗)
顧問先データですから、費用構成と性格を理解しています。勘定科目法で固変分解し最も正確な変動比率、固定費額を計算することもできますので検証することができます。

実際に検証してみた

実験対象の属性はつぎのようなものです。

業種 小売業
売上規模 250百万円
売上総利益率 月次を通じて安定的(限界利益率と見て問題ない)
固定費 大半が販管費(店舗家賃と人件費が大半)

検証結果は次のようになりました。

最小自乗法a 勘定科目法b 差異a-b
限界利益率 秘密 秘密 △11.5%
固定費額(年) 秘密 秘密 約△35,000千円
損益分岐点売上 秘密 秘密 約△28,000千円

限界利益率が11.5%違うというのは非常に大きな差異です。
この結果、固定費は3,500万円も過小に評価されてしまいました。また、損益分岐点も2,800万円も過小評価されています。
この差異は無視できるものではないと思います。このようなデータを意思決定にそのまま使うのは危険ではないでしょうか。

なんでこんなに狂うのか

最小自乗法によるCVP分析は恣意性がないとされますけど、固定費の増減を変動費扱いしてしまう可能性が常にあります。

EXCELで作成したグラフを見ているとサンプルデータが近いエリアに密集しているので計算誤差が大きくなるような気がします。
月次決算データによると売上高を示すX軸のデータが各月次で似たような位置に偏る傾向があるのではないか。
近似曲線の傾きは変動費率を示しますが、X軸のゼロ近辺から満遍なく分散していないと、傾きに与える影響が大きくなる傾向が強くなるのではないかということです。数学的統計的に正しいかは知りませんけどね(汗)
ただ、月次決算の売上と費用の関係で言えば、どうしても原点から平均売上までの間で満遍なくサンプルデータが分散しにくいと思われます。CVP分析に適用した場合、計算誤差が大きくなるような気がします。

経常利益ベースで近似曲線を計算した場合

 

最小自乗法によって損益分岐点分析を行い自社分析や他社分析を行うのはよいのですが、かなり大きな計算誤差が生じる可能性が高いことを理解のうえ行うべきでしょうね。
競合他社データのように入手困難なデータを分析するならまだしも、自社の本格的な財務構造の改革の参考値とするのは危険すぎます。競合他社分析でもお化粧がない保証はありません。

最小自乗法によるCVP分析ワークシート無料配布(粗品)

最小自乗法でCVP分析を行うためのEXCELワークシートを無償配布します。
12個(ヶ月)のデータがあることを前提としています。
自社の月次データで試してみるのもよし、競合会社や上場会社を分析してみるのもよしです。
12個のデータがない場合にはパラメータを修正する必要があります。
利用は自己責任でお願いします。

『高田直芳の実践会計講座 「管理会計」入門』

2012年5月22日 | 管理会計 / 読書

CVP分析が詳しく書かれている本というイメージで何となく2年ぐらい前に買った本なのですが、ずっと放置しておりました。
ふと、本棚を見て読んでみることにしました。

高田先生、オタクです!

最初は基本的なCVP分析のおさらい本かな?と思いつつ読んでおりましたが、どんどん深くなってきます。
CVP分析の落とし穴やポイント制のマジックあたりは痛快です。
書きぶりが独特で読み易さに配慮されていますけど、CVP分析をそれ相当に理解できている人でないと途中でついていけなくなるかもしれません。

教科書的な内容ではなく、実務で試行錯誤してきたからこその視点が随所に認められる実務家のための本だと思います。

ただ、後半は自分も飽きてきたのか、計算過程の説明がくどく感じられて読み飛ばしてしまいましたけどね。何を言いたいのかがわかればOKでしょう!

管理会計の導入を検討している会社、CVP分析に振り回されてしまった経験のある実務家や予算制度の導入・改善を検討中のみなさんにお勧めの本だと思います。




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上原将人(上原公認会計士事務所) × 阿部淳也(1PAC. INC.)

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